vol.05

写真家
本城直季さん

Vol.5のセンパイは、写真家の本城直季さん。
一見すると「ジオラマ」風、けれど見ているとそうともいえない不思議と惹き込まれる写真を撮影し続けるセンパイの相棒は、年代物の大判カメラ。何だか飄々とした本城さんにとっての「写真」というもの、そして自分のペースや距離感を大切にする考え方について、お聞きしました。

本城直季(ほんじょう・なおき)

写真家。1978年生まれ、東京都出身。大判カメラの「アオリ」を使った、実際の風景をミニチュアのように見せるスタイルで一躍話題を集め、初期作品『small planet』では、“写真界の芥川賞”とも言われる木村伊兵衛賞を受賞(2006年度)。以来、世界各地の様々な風景・情景を撮影し、6冊の写真集を出版。2022年には東京都写真美術館で個展「(un)real utopia」が開催された。一方で雑誌連載なども手がけ、写真家4名によるスタジオ「4×5( shi no go )」も運営中。実は「間貫けのハコ」の広告ビジュアルでも撮影していただいています。

そんなに自分で決めてもなぁ、って

本城さんの愛用する、大判カメラ。普段は「シノゴ(4X5)」なんですがこれは「エイトバイテン(8X10)」。いずれの呼び名も、大判フィルムのサイズから。撮るためには一枚の大きなフィルムを入れて1枚きりの撮影をする、デジタルとは真逆のアナログな写真機です。

大判カメラを生で見るのは初めてです。かっこいい……けど重そうだし、扱うのが大変そうです。

本城センパイ
でも、シンプルでわかりやすいんですよ。本当に、ただの箱なんです。レンズを外すと、単なる空間が中にあるだけっていう。

本城さんの「ジオラマ風」な作品は、フィルムとレンズの間にある巨大なジャバラを操作することで生まれているそうです。

本城センパイ
普通のカメラだと中で何が起きてるかわからないけど、これは、自分の中で理解できる範囲なんです。それがいいなと思って。

デジカメもスマホも、中で何が起きてるかなんて考えたこともなかったです。

本城センパイ
自分で使ってみて、仕組みを理解できるかどうかってところを大事にしてるかもしれないです。評判がいいとか、人に言われてとかだとあまり続かないもので……、自分で色々試して、納得して使いたいんですかね。

フィルムや大判カメラのどんなところに魅力を感じますか?

本城センパイ
フィルムにあるのは、それこそ本当に間っていうか。余裕とか雰囲気、距離感って言うんですかね。あと、大判カメラはコントロールがすごく難しいんです。のぞいてもはっきり見えないから「だいたい」になるんですけど、それが好きで。自分が求めてるものになかなか近づかないのがいいなって思います。

思い通りに撮れることは少ないのでしょうか。

本城センパイ
あ、思い通りに撮れた方がいいかどうかっていうのも重要で。デジタルだと、みんながいいっていう方向にいっぱい撮ってあとから選べちゃうから、上手い写真が集まりすぎちゃうんですよ。それって「抜け」がなくなっちゃうことだと思って。シノゴだとフィルムだし、たくさんは撮れないから選びようがなくて、「これしかないですよ」みたいな(笑)。それが大きな違いですね。

たしかに、本城さんの作品には抜け感があるし、距離感が独特ですよね。

本城センパイ
間とか構図がゆるいのが特徴的かな、と自分で思っていて。きっちり寄って「必ずこれを見せよう」とか、「構図を決めてきれいな瞬間を撮ろう」というよりは、その場の雰囲気とか距離感を伝えたいっていうのがあるかもしれないです。

本城さんの代表作『small planet』や『東京』のように、ヘリで撮影をされることも多いですよね。そういう時も、構図とか撮りたいスポットを事前に決めないことが多いですか?

本城センパイ
一応、あたりくらいはつけますね。でも空撮する他のカメラマンに比べたら、たぶん相当ゆるいというか、のんびりしてると思います。他の人は撮りたい場所をちゃんと決めて、ヘリの人に色々指示して撮ると思うけど、『東京』の時もあんまり指示しないで、ぷらっと回ってください、って。それで良さそうなところがあったらもう一度向かってもらう、みたいな感じで。

かちっと決めずに。

本城センパイ
そうですね。そんなに自分で決めてもなぁ、って。偶然見ていいなって思ったところが、結構大事だったりするんで。そのためにも、決めすぎないでおきたいですね。

とはいえ、ヘリのチャーターにもフィルム代にもお金がかかりますよね。「良いのが撮れなかったらどうしよう」って不安になったりはしないですか?

本城センパイ
あ、ありますね。あるっていうか、ヘリを降りた後に「今日ダメだったな」とか(笑)。
一回、空撮してる時に蛇腹に隙間が開いてたみたいで、戻ってきたらフィルムが全部感光してたこともありました。

なんと……。

本城センパイ
でも、もうしょうがないんで。そんな感じだから、お金持ちにはなれないですね(笑)。

本城さんの写真集『東京』(リトル・モア)より。東京の街を大判カメラで空撮してまわった作品群に目を見張ります。「だいたい」と本城さんはいいますが、その精密さに「本当に?」と思ってしまいます。

写真も暮らしも、 どこか引きの視点から

本城さんといえば「風景」というイメージなんですが、東京で暮らす人の台所をテーマにした連載『東京の台所』(朝日新聞デジタルマガジン&[and])の撮影もされてますよね。色んなお家の台所。いつもと違うスタイルが意外だったのですが、素敵です。

本城センパイ
普段はマクロな視点で撮ることが多くて、東京の街を空から見ていると「こんなに密集してるところに、よく人が住んでるな」と思うけど、『東京の台所』は逆にミクロな視点というか。人の生活に焦点を合わせて撮っていると、「やっぱり現実にひとりひとり暮らしてるんだ」と実感できていいなって。

人の家の台所ってなかなか見れないし、興味深いです。

本城センパイ
僕は主夫をやってて料理もするので、色んな台所が見れるのはおもしろいですね。

今は子育てしながら、千葉にお住まいだとか。

本城センパイ
はい、僕は東京で生まれ育ったけど、東京で子育てするイメージってなくて。子どもの時遊ぶ場所が狭いなと思ってたし、夏休みとか冬休みに地方に遊びに行った時にすごく楽しかったので。住んでるのは住宅街だけど、ちょっと行けば手賀沼ってところがあって、そこには自然が残ってますね。子育てにはすごくいいなと思います。のびのびできます。

伺っていると、おおらかさを大切にされている気がします。もともとせかせかしない方ですか?

本城センパイ
ああ、のんびりしてるとは思います。一度撮影の時に手伝ってもらった人が、すごいせっかちで(笑)。その時は高いところにのぼって、しばらく黙って撮ってたんですけど、その人は落ち着かなかったみたいです。自分としては焦ってても顔に出ないみたいで、『焦ってる? 大丈夫?』って心配されたこともあります(笑)。

どうして、のんびりした性格になったと思いますか?

本城センパイ
なんだろう……。子どもの頃、祖父母と一緒にいる時間が長かったからですかね。家から2、3分のところに祖父母の家があって、そこが好きでよく行ってて。すごく古い昭和な感じの家で、縁側があって。そこで日向ぼっこして寝てもいいし、本を読んでもいいし。そういうふうに過ごすのが好きでした。あと、学校で写真を学び始めた頃は祖母と暮らしていたので、よく撮っていましたね。

今もInstagramでご家族の写真をアップされていますね。ご家族を撮るのはなぜですか?

本城センパイ
なんでですかね。やっぱり興味があるというか。わざわざ対象を見つけるより、自分の根っこの部分を撮影したいなって。

本城さんのインスタグラムより。

「ちょっと、今は撮らないでよ」みたいに嫌がられることはないですか?

本城センパイ
それは特にないですね。たぶん僕の撮影の仕方が、ちょっと一歩離れているというか。家族でもそんなにグイグイ行くんじゃなくて、さりげなく撮ってる感じで。

家族とはいえ、距離感を大切に。

本城センパイ
家族もそうだけど、人との距離感はいつも少し遠目かも。周りの人たちが忙しくしてる時とかも、ぼーっとしがちで。あと、みんなが楽しそうにしてる時にも、一歩加われないでいる、みたいな(笑)。

本城さん撮影による「間貫けのハコ」のビジュアルはこちら。本物の家に見えますが、実はジオラマなんです。

自分を納得させるのを、一番に

今回お話の中でも「間」や「抜け」という言葉が出てきましたが、改めて「まぬけ」ってなんだと思いますか?

本城センパイ
まぬけって……いい空間とか、いい雰囲気かなって。余裕って言うんですかね。大切だと思います。でも、それこそ僕がまぬけな感じで。

というと?

本城センパイ
色々先延ばししすぎるタイプですね。あと、失敗しちゃった時とかもよく家族とか友だちに自分のダメさを聞いてもらって何とかなったりしています。
あと、スタジオの仲間との関係も、まさにまぬけといいますか。もう本当に真面目なのか雑なのかどっちつかずで、ゆるい付き合いっていうんですかね。

(笑)衝突することもないですか?

本城センパイ
あんまりないですね。誰かがなんか言ってても「なんか言ってるねぇ」「あれは言い過ぎだよねぇ」くらいの感じで流しちゃいます。

人付き合いに悩むことも、少ないですか?

本城センパイ
基本、深入りせずにすぐに逃げちゃうかもしれないですね。だから悩むみたいなことはない。だけど家庭だと、妻には「もっとしゃべって」とよく注意されています。家族といても、そんなにしゃべらないから。だから人付き合いでは、しゃべることを意識してます。

今日は、たくさんしゃべってくださりありがとうございます(笑)。でもそのマイペースさがうらやましいです。人の評価も、あまり気にならない方でしょうか。

本城センパイ
自分を納得させたい気持ちの方が大きいですね。自分がいいなって思えるものを作りたいと思ってるんで、ついでに人に褒めてもらえたらいいな、って感じかもしれませんね。

最後に、「まぬけのセンパイ」として後輩へのメッセージをお願いできますか?

本城センパイ
そうですね……。やるべきことは若いうちに、ちゃんとやっておいた方がいいなって。それは、僕が先延ばしする方だからこそ思うというか。いま、時間が欲しいなって気持ちがあって。若くてしがらみがなくて時間があるときに、色々やっておくといいのかなって思います。

間貫けのハコ

間があって、貫けがある。間貫けのハコへ、おかえりなさい。

まぬけは愛だトップ