これか!愉化

音が鳴らなかったりかすれてもいい。
時間が経って壊れた音が“今しか作り出せない”音楽に。

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トクマルシューゴ

時間が生む独特の風合いや深みを愛する人にとって、経年劣化はむしろ「経年愉化」。
この番組では、経年をポジティブに受け止め、自分だけの楽しみ方を見つけている人を訪ねます。
今回は、ヴィンテージ楽器やおもちゃ楽器など、100以上の楽器・非楽器を操り独自の音色を奏でる音楽家のトクマルシューゴさんにお話を伺いました。楽器の経年の面白さを探っていきます!

\ 本編はYouTubeにてお楽しみください! /

自分の音楽を構成するのは
古い楽器特有の“今しか出せない音”

ピアニカは僕が幼稚園のときに買った楽器で、1983年ぐらいに作られたもの。

これはいまだに録音などでよく使っています。ピアニカやメロディカなどの鍵盤ハーモニカはたくさんの種類を持っているのですが、その中でもこの子にしか出せないちょっと変わった音が出るので、すごく重宝してる楽器ですね。

もうひとつ大好きなのがおもちゃ楽器。おもちゃはすごく壊れやすいんですが、僕は「壊れてしまう」っていうのがすごく好きなんです。音がほとんど出なかったり、錆びてしまって響かなくなったり、音程が狂っていたり。それって新品には出せない壊れやすさで生まれる良さで、“今しか出せない音”。

「経年」と聞くと、その後に「劣化」を思い浮かべる人が多いじゃないですか。でも僕からすると、この壊れてへたった音、もしかすると普通なら「悪くなった」と捉えてしまうような音こそが魅力的なんです。この音色に出合えるのも経年した楽器の一つの面白さだと思います。

楽器と長く付き合うなら
枠にとらわれず“遊ぶ”ことが重要

何十台も持っているトイピアノなんかもそうですけど、僕は楽器を初めて買った時、すぐに分解したくなってしまいます。どのようにして音が鳴るのか、蓋を外したりして中の仕組みを知りたくなるんです。推奨されていないかもしれないけど、それが僕なりの楽器の楽しみ方。
おもちゃ楽器も本来は楽器というよりも子どもが楽しむための玩具で、壊れてもいいし、壊してもいい、自分の好きなように扱えるところが好きなんだと思います。
日本の音楽教育だと、特にリコーダーや鍵盤ハーモニカに対して「強制させられた楽器」っていう認識の人が多いですよね。大切に扱いなさい、こう演奏しなさい、という決められた枠にとらわれないで“遊ぶ”余裕を持っておくことが楽器を長く楽しむ上で重要なんじゃないかなと思います。

楽器がまだ奏でていない魅力的な音が
経年によって膨らんでいく

経年変化の楽しさは、初めて出会ったときには感じなかった発見がどんどん出てくること。僕がよく使っている鍵盤ハーモニカやリコーダーも実はそうなんです。子ども時代にみんなが学校で使っていた楽器ですが、僕の周りのミュージシャンでも、大人になってからその音の良さを再発見して取り入れている人が多い印象です。「こんな使い方もあるんだ」とか新たな発見ができたり、違う魅力が見えたりするので、楽器に眠る可能性が経年変化によってどんどん膨らむのが魅力だと思います。

トクマルシューゴさん

音楽家

ギターと玩具を主軸に無数の楽器を演奏する音楽家。楽曲の全てを作詞・作曲、演奏、アレンジ、レコーディング、ミキシングまでひとりで手掛ける。
現在はアニメ『ちいかわ』、Eテレ『ミミクリーズ』などの音楽を担当。CM、ドラマ、映画、舞台、アニメーション、様々な分野で楽曲制作している。また保育研究にも携わっている。

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