SINCE
2002
いい庭は、蝶に聞け
茨城県 鉾田の家 前編(庭)
花のありかを、地図は示してくれない。蝶の行先に、花がある。春の盛りに比べれば、花の数も種類もずいぶん少ないけれど、それでも鉾田の家の庭には、どこからか惹きよせられたアゲハチョウやモンキチョウがひらひらと遊んでいた。
この地にBESSカントリーログハウス「クレスト」が建てられたのは2002年。まず、庭の変わり様がおもしろい。こちら、20余年の時間を眺めよう。
2003
完成翌年2003年。まだ植栽も小さかった。(当時、家が注目され、掲載された雑誌より)
2024
生垣の緑には、冬はサザンカの赤い花、春先にはマサキの白い花が一斉に咲きほこる。
のどかなサツマイモ畑も隣接する住宅地。視界も抜けて、おおらかな空気の環境。花や庭に惹きよせられるのは蝶ばかりではない。人にとっても魅力的に映るようだ。
見えないから、見える時間
住人のOさんによれば、「いつもここを通ると、どんな人が住んでいるんだろうと思ってたんですよ」と声をかけられるという。花の美しさや香りに誘われるだけでなく、陰をつくると、のぞきたがる人の習性か。庭の緑が茂り、人目からは、すべて明らかにしないことが、むしろ想像力をくすぐるのだろう。
20余年かけた時間が醸し出す、庭の見えないオーラをきっと人は敏感に感じとっている。
じつは、2008年までは全然違う庭だった。ビワやイチジク、ゆず、南高梅、ユスラウメが植えられていた。つまり、果実のなる樹々。それらの果樹が年々大きくなるにつれて、陽当たりがだんだん悪くなった。さて、困った。どうするか?
庭の大リフォームをしよう。ゆずだけ残して、あとの果樹は思い切って抜くことにした。そして、果実の庭から花の庭へとテーマの大転換を図った。プロの庭師には頼まない。Oさんの独学で、自分の手で、1本1本植えていったのだ。
花一本にも、経年愉化がある
高いお金で買ってきて、植えてすぐ咲かせるようなやり方はしなかった。たとえば、“花友達”のアジサイを切ってもらってきて、挿し木して、じっくり時間をかけて、2、3年後にきれいな花を咲かせる。
そうやって、一本の挿し木から、一粒の種から育ててはじめ、歳月が経つほどに愉しみや愛着を増していく、花一本の経年愉化もあっていい。
20余年をかけた庭まるごとの経年愉化を考えつつ、そんなことに気づいた鉾田の家の、庭だった。