まぬけもの

vol.03

「もの」における、まぬけとは?
今回訪れたのは、
雑貨コーディネーターのオモムロニ。さん。
ものにおける、まぬけを考えてもらうと、
ひとに対する優しい向き合い方まで見えてきました。

オモムロニ。

雑貨コーディネーター。気になるひと、もの、ことを発信するブログ「オモムロニ。」を2003年に開設。以降、独自の視点でセレクトした雑貨やギフトなどを、雑誌やウェブ媒体で紹介し続けている。そのほか、ブランドとの商品企画や、ものにまつわるエッセイ執筆なども行い幅広く活動中。著書に『DAILY GIFT BOOK 気持ちが伝わる贈りものアイデア』がある。

よくよく考えてみると、
私の家にはまぬけものばかり

小学生の頃から、学級新聞のワンコーナーを受け持って
おすすめの文房具や縄跳びなどをクラスメイトに紹介するのが楽しみだったというほど、
純粋にものを愛してやまないオモムロニ。さん。
そのご自宅はやはり、あちらこちらにもの、もの、もの!

「断捨離をして、最低限のものしかない時期もあったのですが、
綺麗に統一された空間はなんだか落ち着かないというか、
自分らしさのない量産的な部屋に感じてしまって。
その時々の好みや家族の歴史が積み重なって
ものが自然とごちゃまぜに置かれた状態の方が、
居心地よく感じることに気付いたんです。
なので、理想があるとすれば”実家感”のある家かな。」

その言葉どおり、リビングの棚やドアの上、さらには植木鉢の中にまで
ものたちがまるで暮らしているように自由気ままに置かれている。
ジャンルも年代もいろいろで、
かわいいもの、スタイリッシュなデザインのもの、
オーダーメイドの一点ものに、大量生産されたアノニマスなものまで様々だ。
「でも、考えてみると、まぬけな一面を持つものが多いかも」とオモムロニ。さん。
そういって、とっておきのまぬけものたちをたっぷり見せてくれた。

本気とウケ狙いのはざま

使命感で買ってしまうグッズ

まず最初は、リビングの棚に
見事にディスプレイされているアクスタ(アクリルスタンドの略)。
「これ、全部公式のグッズなんです。
自分が好きな人はもちろん、こんな人も?! というような
意外な人物のアクスタを見つけると、ついつい買っちゃいます。
でもこうやって一堂に会すると、カオスというかまぬけですよね。
ストーリーがあるような、ないような(笑)。」
アクスタ以外の公式グッズでも、「私が買わないと!」という使命感に駆られ、
気付いたらたくさん集まっていたものがあるんだとか。
そういって見せてくれたのは、
テレビ番組やスポーツチーム、歌手のコンサートや芸能人の公式グッズ。

『全日本仮装大賞』の点数パネルおもちゃは、
ボタンを押すとひとつずつランプがつき、不合格と合格の効果音まで実際に鳴る。
プロ野球ドラフト会議の抽選箱に見立てたティッシュボックスは、
12枚に1枚「交渉権確定」と書かれたティッシュが出てくる。
TBSラジオ『東京ポッド許可局』の番組イベントで買ったスリッパは、
茶色の生地に金色の文字という公民館スリッパ風デザイン。
普段使いできるかわいい赤色のローキャップは、
お笑い芸人の友近が扮するデリバリーピザ店員「西尾一男」が被っているもの…。
「クオリティも高いうえにユーモアもあって、
好きが高じて本気で作ったのか、
笑いを求めて面白半分で作ったのか絶妙にわからない感じが
まぬけで愛くるしいの」とオモムロニさん。

ものも人も、可愛さの秘訣は欠点

ゆる〜いぬいぐるみ

続いて、スヌーピーっぽいようなぽくないような犬のぬいぐるみや、
フリーマーケットやヴィンテージショップで買った、
年代も作者も不明なくまのぬいぐるみたち。
どこを見てるんだかわからないゆるい表情、なんともまぬけ……。
するとオモムロニ。さんは、
まぬけ=完璧じゃない部分のことなのでは? とまぬけの定義を閃いた様子。

「人間関係で人のあまりよくない面を見た時に、それを欠点とは思わずに
”ほつれ”と言葉を変えて普段から捉えるようにしてるんです。
そうすると、あれ? と思う行動も不思議とちょっと許せちゃったり、
その部分も含めて寄り添えるようになったりする。
ものも同じように、完璧じゃないまぬけな部分があることで
無意識に可愛く見えてくるのかもしれません」。

無駄を楽しむおおらかさ

セーターが全然出てこない
セーターブック

オモムロニ。さんのまぬけもの生息地はリビングだけじゃない。
雑貨と雑誌しかない”もの”置き部屋があるのだが、
そこから80〜90年代に流行したセーターブックをどっさり持ってきてくれた。

セーターの編み図とともに、
当時の人気モデルや若手俳優、スポーツ選手たちが
セーターを着たイケメンな姿が収められた写真集のような編み物本なのだが、
まれにタンクトップや水着を着たセクシーな写真ばかり目立つものがある。

「風間トオルさんの本は、愛好家の中では伝説ですね。
セーターブックなのにセーター着てないじゃん! って思わずズッコケちゃう(笑)。
他にも、若手独特の生意気な気取ったインタビューとか、
今だったら許されないだろうと思うページが満載でツッコミどころだらけ(笑)。
競馬騎手の武豊さんの本なんて、
武豊さんではなく馬の写真が丸々見開きでドーンと載ってるんですよ!
でも、そのバブル期ならではのおおらかさがいいんですよね。
この時代特有かもしれないですが、
無駄も楽しんでもの作りをする遊び心がここには詰まってますね」。
たしかに、目的に向かって無駄を省いて最短距離で作られた製作物にはない洒落がある。

青春時代をともに過ごした
化粧品とショッピングバッグ

「中高生だった90年代中後期に流行ったコスメやショッパーもまだ持ってますよ」
とオモムロニさん。
エアラインをモチーフにし、
かつて数年間のみ資生堂から発売された「FSP」(フリーソウルピカデリー)や、
資生堂のコンビニ専用化粧品「化粧惑星」などの化粧品容器は、
作りが凝っていてグラフィカル。

買い物をするともらえたというアパレルブランドのショッパーは
ブランドロゴが大胆にプリントされている。
「当時は、これに体操着などを入れて、
サブバッグとして学校に持っていくのが学生たちのスタイルだったんです。
どのブランドを持っているかで、
ギャル系、体育会系、ストリート系、カルチャー系などがすぐ分かるっていう(笑)。
今はもう使わない昔の化粧品やショッパーを
なんで20年以上も保管しているんだろうって自分でも思いますが、
今見るとちょっとやりすぎなくらいの自由度の高い作りにグッときて
なかなか捨てられないんですよ。
同世代の人に見せるとすごい盛り上がりますし(笑)」。
青春時代をともに過ごしたまぬけものは、
時が経って人を笑顔にする力も持っているみたいだ。

まぬけものを見つける視点を育んだもの

熟読していた
雑誌『オリーブ』

さて、ここまでオモムロニ。さんが紹介してくれたまぬけものたちは、
個性的でノスタルジックで、はたまた作り手への教訓さえも隠れていた。
もの自体のインパクトはもちろん、
「おしゃれだから」「みんな好きだから」などの単純な理由ではなく、
独自の感性や視点でものを選ぶ姿勢そのものが素敵だったので、
それはどのように養われていったのかを最後に聞いてみた。
すると、「小学生の頃から読んでいた雑誌『オリーブ』の影響が大きい」と即答。
「心が躍る自分なりの好きを見つける楽しさを教えてくれた大切な雑誌です。
雑貨コーディネーターとしてお仕事をしている私の原点と言ってもいいでしょうね」。
言わずもがな、『オリーブ』はオモムロニ。さんのお家にちゃんとある。
それも、たくさんのまぬけものたちと共存して。

Editor’s note

「欠点を”ほつれ”だと思う」と取材で話していたオモムロニ。さんは、人の意外な一面を知るのが好きなのと言って、取材陣に趣味や休日の過ごし方などを逆質問してくれました。
相手の心も自然と開くような気取らない問いかけにオモムロニ。さんの優しい性格が垣間見えた気がしました。
そうそう、そのときに振る舞ってくれたお茶が、とても素敵なヨーロッパヴィンテージのティーカップに注がれていたんです。
まるで女性がお風呂に浸かっているような絵が描かれ、スプーンにもパンツの絵が!
これもきっと、オモムロニ。さんの大切なまぬけもの。

間貫けのハコ

間があって、貫けがある。間貫けのハコへ、おかえりなさい。