まぬけもの

vol.04

「もの」における"まぬけ"を探して、
今回訪れたのは、長野県諏訪にある
リビルディングセンタージャパン。
古材と古道具を扱う
建築建材のリサイクルショップです。
でも、ただのリサイクルショップではありません。
「反骨」と「愛」と「想像力」にあふれているんです。

ReBuilding Center Japan

通称"リビセン"。諏訪市にある古材と古道具を販売する建築・建材のリサイクルショップ。アメリカのポートランドにあるリサイクル住宅資材のショップ「ReBuilding Center」の日本版として2016年にオープンした。解体された古民家などから“レスキュー(回収)”した建材や家具などを清掃して修繕し、販売している。2019年には、既存の古材店にはない価値を提供したことなどが評価され、グッドデザイン賞により「GOOD DESIGN BEST100」に選出された。

古いものから新しい文化をつくる、リビセン

解体される建物から古材や古道具が出ると聞けば、それらをレスキューしに行き、
リサイクル販売したり、ショップデザインに取り入れたり、
家具としてリプロダクトしたりと、行き場を失ったものに新しく息を吹き込む会社です。

捨てられていくものや忘れられていく文化を見つめ直し、
再び誰かの生活を豊かにする仕組みをつくっていきたい、というスタンスは、
会社というより「チーム」といったほうがふさわしいかもしれません。

建設会社が使っていた、3階建ての古いビルをリノベーションしたという。
1階にはカフェと、古い家屋からレスキューしたという梁や柱、板材といった古材が並ぶ半野外のスペースが。2階と3階には、建具、家具、古道具などがぎっしりと、でも、きちんと分別されている。
総売り場面積、約1000平方メートルもの広さ!
すでにこのなかに「まぬけもの」がたくさん潜んでいそうだけど、今回、訪ねるのはリビセン社員寮のほう。

カメラ初潜入。リビセン社員寮

そう、リビセンには実は社員寮もあり、
そこでは「ここで働きたい!」と遠方から移住してきた人たちや、
「おもしろそうだから、経験してみたい!」と短期手伝いのサポーターズと呼ばれる若者たちが暮らしている。

これまで取材はほとんど受けたことがない、という社員寮。
1階は、事務所、キッチン、リビング、和室に、トイレとドミトリー的な二段ベッドが複数ある小部屋。2階には複数の個室とバス・トイレといった間取り。
片っ端から個室のドアを叩いてなかを見せていただきたいところだが、そうもいかず、今回はふたりにご登場いただいた。

家族の思い出が自分のまぬけに

三浦さんの部屋

リビセン最年少、三浦さんの部屋。
高校から寮生活をしており、「限られた場所で、誰かと一緒に暮らすことに慣れている」とすでに寮生活のベテランだ。
神奈川、熊本、信州と離れた土地への引っ越しが多く、ものはあまり持ちたくない派。

そのなかで、どうしても手放せないのがお父様が保管してくれていた、三浦さんが生まれた日の朝刊と、子どもの頃に遊んだお手玉。
自分にとって「まぬけ」とはなにか?を考えたときに、心にほっとする暖かい風を吹き込んでくれる記憶がそれだと感じた、という言葉に、一同思わずほろり。

身軽がいちばん

高橋さんの部屋

去年6月から働き始めた、という高橋さんの部屋。
もともと別の県で塗装の職人をしていて、「古材を使う仕事がしたい」とリビセンへ。「軽自動車に乗るだけ」と決めて、とにかく身軽に引っ越してきた。
「まぬけものといえるものがない、というか、もの自体がない」と苦笑いをしながら出してくれたのが、このふたつ。

「塗装の職人になったばかりの頃、ペンキをきれいに塗る練習に使っていた台なんです。よく見るとペンキがムラになっていたり、垂れていたり」。
いまや経験も積んでベテランとなった高橋さんの、青春が詰まった台である。

近くにある諏訪湖のほとりで拾った流木。
何度も水と砂に洗われ、まるで石のようにすべすべとしたやさしい質感。
古いもの、古い木が好き、という高橋さんの目を和ませてくれる。

まぬけものしかない!

金野さんの家

さて、リビセンいちの「まぬけもの」の持ち主と聞いて、社員寮から飛び出して創業からのメンバーであり執行役員をつとめる金野さんの住まいへもうかがった。
金野さんは筋金入りの古いもの好きで、「いちばん買い物をしているのが自社でかもしれない」と笑う。そんな金野さんが愛猫2匹と暮らすのは、古い平屋だ。昭和を感じさせる木製ビーズののれんをくぐると、8畳ほどのダイニングキッチン。

「まかないがあるから、料理をするのは休みの日くらいですかね」と、いいながら、調理道具がしっかりそろった、とても使いやすそうなキッチンだ。
店に並んだ古い鍋もレスキューしてきたもの。持ち手の部分が腐食して穴が空いたそうだが、色、フォルムに惹かれ、思わず買ってしまった。「水を入れ過ぎなければ全然使えますよ」と、意に介さない。確かに!穴が空いていても立派に使える。

かつては農業で使われていた収穫用の大ざるも、リビセンで。
ふだんの料理をするうえでは使う機会が限られているため、壁に飾っては愛でている。

リビングの一角にあるメイクスペース。「三菱パイレン トリコット」、「スワンのワイシャツ」と名入りの鏡は、昔の洋装店にあったもの。曇って顔がはっきり見えないがそれがいい、というのもまぬけを感じる。

古材、家具、日用雑貨……。リビセンでは、なんでもかんでもレスキューしているわけではない。「次の世代にもつなげたいものかどうか」「自分たちがその使い方提案できるかどうか」を、その基準としている。
「木や鉄、竹のような自然の素材できちんと作られていて、人が使った跡があるものって、かっこいい。そんな背景があるものが、私にとってはまがあってぬけのある持っていて気持ちがいいものだな、と思うんです」

Editor’s note

リビセンで働きたいがため移住する人があとをたたず、そのために社員寮を作ったと以前から聞いていました。社員寮に暮らす人にもそうでない人にも賄いがあり、昼食・夕食をともにするという、なんともつながりを大切にする働き方に感心しました。今回、訪ねた三者三様の「まぬけ」の価値観。自分の記憶を宿したものを大切にし続ける。古いもの、処分されそうだったものを"レスキュー"し、手を加え、新しい文化や価値観を作る。「まぬけもの」を探す我々としては、はっとするような気づきをもらった回となりました。

間貫けのハコ

間があって、貫けがある。間貫けのハコへ、おかえりなさい。