
vol.13

その人の持っている“もの”についての話を聞きながら、“まぬけ”の意味を探っていくこの連載。今回登場いただくのは、オンラインショップ「光と音の専門店ハオハオハオ」を運営する光と音のハオハオハオさん。店名からして摩訶不思議ですが、売っているものはさらに謎めいています。だけど、そこには「もの」をめぐるハオハオハオさんの情熱と、果てなき好奇心がありました。奥深い「ブッダマシーン」の世界とは……?

光と音のハオハオハオ
念仏や仏教ソングが流れるブッダマシーン(電子念仏機)を中心に、光るものや音の出るものを世界中から蒐集。雑貨、楽器、カセットテープ、CD、おもちゃ、宗教グッズ等を販売するオンラインショップ「光と音の専門店ハオハオハオ」を運営する。世界旅行が好きで、これまでに行った国は45か国。2021年2月には、オリジナルの電子念仏機「天界」をリリース。
矛盾に満ちた機械?『ブッダマシーン』とは!

いきなりですが、問題です!
華やかなこのプラスチックの機械は、一体何でしょう?
ラジカセ? 子供用のおもちゃ? いいえ、これはブッダマシーンと呼ばれる中国製の電子念仏機。スイッチを入れるやいなや、ライトがピカピカと光る奇抜なデザインとは裏腹に、流れてくるのは、お坊さんが唱える念仏やメロディ付きの仏教ソング。1曲収録のものから、1600曲も入っているものまで様々で、可愛い見た目と真剣な中身のアンバランスさが、妙にクセになります。
「中国人の誰もが知っているとまでは言えないですが、ブッダマシーンは知っている人にとっては身近な存在です。お寺では、これを置いてBGMのように流し、個人的に持っている人は、首元にかけたり、車のフロントからぶら下げたり、家の神棚に置いて流しっぱなしにしていたり。現世利益のために生活に取り入れているそうです」

使い道を教えてくれたのは、オンラインショップ「光と音の専門店ハオハオハオ」でブッダマシーンを販売しているハオハオハオさん。聞けば、14歳の頃から、ブッダマシーンの虜なのだとか。
「FM3という北京の現代音楽アーティストが、自分たちの楽曲を収録したアンビエントループ再生機『Buddha Machine』を2005年に発売したんです。当時はタワーレコードやヴィレッジヴァンガードで売られていて。音楽好きの間で流行り、私もご多分にもれずゲットしたのですが、その元ネタの『電子念仏機』があることを知り、私の興味は完全にそっちへ。日本人からすると堅苦しいイメージのあるお経がスイッチ一つで聴けるという矛盾に、面白みを感じたんです」
そうしてハオハオハオさんの情報収集がスタート。しかし、みうらじゅんや、いとうせいこうが本で言及していたり、テレビ番組『タモリ倶楽部』で紹介していたところまではたどり着いたものの、中国やアジアに旅行しても、実物は全然見つからない。
「簡単に手に入らないから余計に欲しくなる気持ちが湧いて、海外旅行に行くたびに懲りずに探し続けました。そして、インドネシアのジャカルタに行った際、『中華街にあるかも』と仮説を立てて行ってみたことで、10年越しに初対面が叶ったんです。

実際に聴いてみると、収録されている仏教ソングが想像以上にポップで聴きやすい上に、音楽としてのクオリティも高くて、ますます魅了されました。それに、意味のわからない単語を調べるうちに仏教への理解も深まっていって、自分の解像度がどんどん高くなるのが面白くて、集めるのがライフワークのようになりました。
それ以来、他のアジア圏の中華街、中国の仏具店やお寺の参道の屋台、中国の浙江省金華市にある義烏(イーウー)という巨大卸売市場などを巡り、最近はビンテージものを求めて、台湾や中国のリサイクルショップや蚤の市にも行っていますね。2年ほどはただコレクションをしているだけでしたが、それだと自己満足で終わってしまうので、みんなにもブッダマシーンの魅力を知ってもらうべく、2017年からオンラインショップで販売をスタートしました」
これまでに手に入れてきたブッダマシーンは、計300個以上。
ということで、今日は、お手持ちのアイテムを見せていただきつつ、ブッダマシーンにおける“まぬけ”な魅力を聞かせてもらうことに。
作り手の顔が見える、おおらかな製品

まず見せてくれたのは、ハオハオハオさんがブッダマシーンを知るきっかけとなった、FM3の『Buddha Machine』。真ん中のピンク色のものがそれだ。左隣2つの黒色のは、元ネタになったであろう旧式モデルのもの。ハオハオハオさん曰く、右隣2つも1990年代頃のものと思われ、年代が古いほど装飾は少なく、デザインもシンプルなのだそう。
「私が特に好きなのは、見た目が無駄に派手で煌びやかに光るものだったり、作り手の顔が見える“ぬけ”のあるもの」と言って、さらにこんなタイプのものも見せてくれた。



ブッダと観音様が謎にハートで囲われていたり、電池を入れるフタにみっちり曲名を連ねていたり、同じモデルなのに収録曲や色味がちょっとずつ違ったり、ペイントがずれていたり。どれもツッコミどころ満載で、完璧からは程遠い。
「『6曲』と書いてある箱に『2曲』と書かれたシールを上から貼っていたり、ストラップ付きのものもあるんですが、オリジナルのストラップかと思いきや明らかに市販のものだったり。今の日本ならクレームになりそうなものが往々にして出てくる(笑)。ですが、人の手を介して作られたことが伝わってきて愛おしく感じるんですよ」
裏には、「for charity use, not for sale」と書いてあるものも。お寺のノベルティだろうか? しかも翻訳すると、「不要なら誰かにあげてください、それがいい縁を結ぶでしょう」的な文章も書かれており、「愛嬌がありますよね」とハオハオハオさん。

しかもハオハオハオさんは、蒐集するだけでは飽き足らず、オリジナルブッダマシーンまで自作しているのだ。デザインはもちろん、七色に彩られながらムーディーに光る“まぬけ”タイプで、その名も「天界」。収録曲には、バンド活動やDJもやっているハオハオハオさんならではのこだわりが詰まっている。
「日本オリジナルのブッダマシーンを作りたかったので、5宗派総勢8名の僧侶に読経をお願いし、収録させていただいたのです。それから、僧侶をしながらバンド活動をしている方やラッパー、さらにブッダマシーン演奏家など、多方面に活躍されているアーティストの方々に、オリジナル仏教ソングを制作していただきました」
もう一つ、あえて貫いたポイントは、“壊れやすい”こと。乾電池を長時間入れておくと、電池が溶けてしまったり、本体が使えなくなってしまうというのだ。

「商品化の際に迷ったのですが、ブッダマシーンは本来そういう仕様で壊れやすいものなので、それを踏襲したんです。普通に使う分にはなんら問題はないのですが、使わない時には電池を抜いてくださいね、とお客様には伝えています」
追加生産もして、非常に人気なオリジナルブッダマシーン。しかし次は、また新しい試みを構想中とのこと。
「コロナ禍でなかなか海外に出られなかった期間、国内を旅したんです。そこで日本の様々なお祭りに興味を持ったのですが、日本の民謡なども様々なルーツがあって面白いもの。まだはっきりした段階ではないんですけど、そうしたシーンでオリジナルなものをつくれたらいいなと考えています」
ブッダマシーンの起源と今
ブッダマシーンの“まぬけ”な魅力や、応用可能なポテンシャルなどを聞かせていただいたところで、ブッダマシーンの謎にも迫ってみよう。そもそも、いつどのように生まれたのか?
「中国のメーカーのスタッフたちに聞いたところによると、1988年に初めて作られたみたいです。1966年から1977年にかけて行われた中国の文化大革命で、仏教も含めた宗教信仰が全面的に禁止された過去があったのですが、その規制が緩くなった反動と、技術導入による工業化が進んだ時代とマッチして、ブッダマシーンが誕生した、と。私がお邪魔した工場は、働いているスタッフはみんな仏教徒で、それによって、ブッダマシーンに理解があるから仕事をしやすいと言っていましたね」
なるほど、時代背景を読み解くと、ブッダマシーンの存在に納得。でも、なぜこんなにピカピカと光り輝いたりしているのか?

「今使える技術を最大限に使って、神様をもてなそうという気持ちがあるようなのです。たしかに、ミャンマーやタイ、ベトナムなどのお寺に行っても、仏像の後ろにネオンのように輝くライトがついていたりするのがスタンダード。日本でも、昔はお寺に金箔を貼っていたように、その時代ごとの最先端技術を用いているのが、今はテクノロジーにとって替わったということなのかなと」

超最新のモデルを見せてもらうと、たしかにこれまたハイテクノロジーに作り込まれている。伴奏にアレンジが加わっていたり、ソーラー充電やBluetooth機能まで兼ね備え、リモコンまでセットに! しかし、これには、現在の中国の情勢も絡んでいるとのこと。

「共産党の取締りの一環として、中国では宗教への規制が再び厳しくなっていて、ブッダマシーンの販売や所持が大々的には難しくなっているんです。孔子の教え等が入った道徳の教材や、弟子規といった中国の伝統的な教材を吹き込んだ、仏教とは関係のないマシーンの販売に舵を切るメーカーも増えてきているのですが、うまく仕様を変えてなんとかブッダマシーンを作り続けているところもあります。仏像や曲名が書いてあると宗教だと気付かれてしまうので、スタイリッシュな石型や、コンパクトタイプ、まるでアクセサリーのような形に変えたり、いろんな工夫を凝らしているんですね。例えば、『FOYOU』というメーカーのものは、ポケベルサイズで、ピンク色にラインストーンもついたギャル仕様が可愛い」
クリエイティブなものはいつだって、反抗的な姿勢から生まれる。現場に流されることなく、新しい方法を考え抜いた姿は、ちょっと感動的だ。

「見た目的に、私が好きだった派手なものはなくなってきていますが、現状維持ではなく、常に変化しようとするメーカーの挑戦を感じられるのは新たな楽しみですね。周囲から外れないように生きる日本の文化とは違って、『こうならねばならない』という枠を取っ払っていることや、規制されたからと言ってめげない姿勢は、最高にパンクじゃないですか?
とはいえ、宗教の持つ力は強大で、それ一つで戦争にもなるもの。なので、単に“面白い”とは言えないですが、作っている人にリスペクトを持って、いろんな人の生活に馴染んでいる様子を愛でていきたいなと思います」
意味がないものが、この世からなくなる前に
ハオハオハオさんは、ブッダマシーンの買い付けの際、他の宗教に関するこんなマシーンも一緒に連れて帰ってきている。ヒンドゥー教のマントラマシーンや、1日4回のお祈りの時間をお知らせしてくれる、イスラム教のアザーンクロック、キリスト教の聖書が聴けるブックレット付きバイブルマシーンなどなど。


そもそもハオハオハオさんは、“もの”への情熱がすごい。曰く「ミニマリストの逆で、ものに支配されている生活」だとか。宗教関連のもの以外だと、手のひらに収まる小さいものや透明なものにも目がなく、各地のリサイクルショップやお土産屋さん、蚤の市で見つけるたびにお買い上げしてしまうという。

「奈良で買った五重塔のオブジェに、中国で買った縁起のよい猫の置物、インドで見つけた金運が上がりそうなスノードーム。こういった、ケースに閉じ込められたものへの好きが高じて、台湾で買った指輪ケースの中にロープで作った犬を入れるなどして、架空のおみやげのような置き物の自作もしているんです。都築響一さんが紹介していた“おかんアート”というのもありましたが、このシリーズを私は“小宇宙”と呼んでいます」

最後に、立派な美術品でも生活必需品でもない“もの”を集めてしまう理由って、なんなのでしょう?
「私がブッダマシーンを買い始めた2015年頃と今を比べても、キッチュなものが全体的に見つからなくなってきていて、時代とともにどこか妙な“まぬけ”なものの絶対量が減っている気がして。お店が潰れることだって珍しくはないし、同じものが同じ場所に売られているわけではないので、見つけた時に保護する感覚ですね。
たしかに、ブッダマシーンや小さいオブジェは、壊れやすいとか実用性がないとか、“まぬけ”な部分もありますけど、クスッと笑えて心が癒されたり元気付けられたりするんです。そういう日々の暮らしを明るくしてくれるものは、お守りのように身近に置いておきたいですね」
Editor’s note
好きなものを見つけたら、とことん追っかけて、自分でもつくってみるハオハオハオさんのブッダマシーン。謎のハコを触ってみれば、日本人の感覚ではなかなか生まれなさそうな「ぬけ」にみちた響きが流れます。それはいろんな時代のいろんな日常を映す祈りでもあり、音楽でもあり、不思議と落ち着きます。現物やその音が気になる方はぜひ、ハオハオハオさんのオンラインショップをのぞいてみて下さい!

