vol.01

俳優・タレント・
粘土作家 片桐仁さん

「まぬけのセンパイ」ってどんな人?
即座に思い浮かんだのが、片桐仁さん。メディアやSNSでその姿を目にするたび、いつも軽やかでおおらかで楽しそうで……。私たちが一方的に慕う片桐センパイは、どんな心持ちで日常を面白がっているのだろう。そんな疑問を胸に、東京・代官山の「BESS MAGMA」にお呼びたてすると「よくぞ僕に……!」と、早速ひと言。撮影中も私たちを常に笑わせ、楽しませてくれる片桐センパイの「まぬけ」で愛おしい生き方とは?

片桐仁(かたぎり・じん)

1973年、埼玉県生まれ。多摩美術大学在学中に小林賢太郎とコントグループ「ラーメンズ」を結成。以降、舞台やテレビ、ラジオ、粘土創作など、さまざまな分野で活躍する。『粘土道』(講談社)など。ドラマ『99.9 − 刑事専門弁護士−』(TBS)、『あなたの番です』(日本テレビ)などにレギュラー出演した。現在は『エレ片のケツビ』(TBSラジオ)、『はじめての美術館』(TOKYO MX)でレギュラー出演中。

人間関係で悩んでも、 「しょうがない」

「まぬけのセンパイ」なんて勝手に呼んでしまって、怒ってませんか?

片桐センパイ
まさか。だって僕、カレーとかすぐこぼすし、Tシャツなんかいつも汚れてますから。創作活動でも、汚れるのがわかっているのにエプロンつけ忘れちゃうし。この間も、自分が飲んでいたコーヒーを絵の具の水入れだと勘違いして、筆を洗っちゃってました。だから、「まぬけ」とは僕のこと。よくぞ見つけてくれましたね。

あ、だけど「まぬけ」といっても今回大事なのは、「間」と「抜け」ですよね。要は遊び心。サブカルチャーがまさにそうですよね。僕がやっていた「ラーメンズ」は、一般の方々にはそうでもなかったけど、サブカルチャー好きな一部の層には知っていただいていた。僕に遊び心があったというか、みなさんがそれを持ち合わせていたから、僕みたいな存在も受け入れてもらえたわけですよね。

メディアやSNSを拝見すると、日常生活をシームレスに楽しんでいて、片桐さんご自身が遊び心満載だなって。その秘密はご自身の性格が関係しているんですかね?

片桐センパイ
う〜ん、そそっかしくてネガティブな人間なのでどうでしょう。シームレスかどうかはわかりませんが、俳優やタレント、作家、父親と、いろいろな顔を持ち合わせているので、各場面で楽しめたらいいなとは思っています。そうは言っても、人間関係で悩んで反省するなんてしょっちゅうですよ。これはもう、「しょうがない」。性格はそう簡単には治らないですから。

ネガティブになったら、 「まぁいっか」でおおらかに

それは意外です……!コミュニケーションが得意なイメージがあったので。

片桐センパイ
苦手ですねぇ。だけど、ドラマや映画などの現場では会話が大事なんですよね。初対面の共演者の方と対峙して、お芝居をしなきゃならないので。めちゃくちゃ恥ずかしいですよ。だけど、昔は人見知りだとかいっていたんですが、それはもう辞めたんです。だって、スカしているって誤解されるし、もったいないじゃないですか。ドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)の現場では、生瀬勝久さんがトークを回す“生瀬御殿”が開かれていたので思い切って参加してみたら、そこでのトークが評価されて出番が増えたりして。そうわかっていながらも、ネガティブな自分が顔を出す時はありますけど。

どんな時にネガティブな気持ちになるんですか?

片桐センパイ
映画やドラマの撮影で噛んだりすると、自己嫌悪に陥ります。だけど、撮り直したのに、噛んだ方が使われてりして。これはつまり、自分がネガティブに感じていたことも、周りはそうは思っていないということ。そもそも自分が思うほど、他の人は僕に興味ないんでしょう。これに尽きますね。

では、ネガティブに陥った時、どうやって前向きな気持ちを取り戻すんですか?

片桐センパイ
ありがたいことに仕事があるので、気持ちを切り替えていけるんですよね。あとは、ひとりの時間の存在も大きいかも。その時間を制作にあてたらいいのに、気付いたらスマホを2時間もぼーっと見つめてたり、ゲームを夢中でやっていたり。「俺、なにやってんだ!?」って。50歳手前になった今でもそういうことは当たり前にありますね。

そういう一面も包み隠さずに飄々と話すのも、なんだか素敵ですね。

片桐センパイ
いやいや、そんないいものじゃないですよ。今でも自分にないものを持っている人に対して、嫉妬してしまうことだってありますから。とくに芸人出身の演技のうまい俳優。たとえば人力舎に多いんですが、ドランクドラゴン塚っちゃん(塚地武雄)を筆頭に、アンジャッシュ児島(一哉)さん、東京03の角ちゃん(角田晃広)、元キングオブコメディ今野(浩喜)、あとワタナベエンターテインメントだとマキタ(スポーツ)さん、我が家の坪倉(由幸)とハナコの岡部(大)など、きっとまだまだいます。だけど、やっぱり比べたって仕方ない。無理に前向きになる必要はないので、こういう時もやっぱり「しょうがない」と思うようにしていますね。

片桐さんにとって「しょうがない」は、むしろ前向きになる言葉なのかもしれませんね。

片桐センパイ
そうかも。あとは「まぁいっか」も、僕にとっては前向きになれる言葉。というのも、美大で版画を学んでいた時、作品提出の締め切り前日に版木を割ってしまって。「もう終わりだ」と絶望していたら、友達に「これを活かした方が面白いじゃん」って言われたんですよ。失敗やミスをすると、視野が狭くなりがち。そんな時、「まぁいっか」という心持ちでいられたら、世界の見る目を少し変えられる。そう学んでからは、ネガティブになりそうな時ほど、「まぁいっか」とおおらかな気持ちでいようと思うようになりました。

「受け身のポジティブ」として、 流れに身を任せる

片桐さんは粘土作家としても活躍されていますが、どうして創作活動を始めたんですか?

片桐センパイ
美大を卒業して5年たった頃、芸人として活動していたんですが、アーティストとして何か証を残したいという思いがあって。そんな時、雑誌の連載で「創作活動してみない?」と声をかけていただいたんです。それで毎月いろいろなものに粘土を盛るという、画期的な連載企画がスタートしました。それが僕の創作活動の始まりですね。

流れに身を任せたら、粘土作家としての道が開けたんですね。

片桐センパイ
僕はこれまで、人に言われるがまま、流されて生きてきたんですよ。芸人も相方に誘われたから始めたし。受け身はネガティブに捉えられることが多いですけど、美術家の横尾忠則さんがあるテレビ番組で、「受け身のポジティブ」という言葉をおっしゃっていて。あの人、すごいアーティストなのに、人にすすめられてデザイナーになった。あの横尾さんだってそう。求められることに応えていけば、おのずと道が開けることもあるんだなって。

人の意見を取り入れる懐の深さが、今の片桐さんを形成したのかもしれませんね。ところで、ずっと気になっていたんですが、ご自身で作ったそのスマホケース、本当に普段から使っているんですね。

片桐センパイ
あ、このモアイのiPhoneケース「モiPhone(モアイフォン)」のことですか。僕は、2000年から携帯電話にずっと粘土を盛っているんですよ。これまでにガラケーとスマホ、それぞれ10種類ずつ作っているかな。「鯛Phone」とか、「カレイPhone」とか、「鬼Phone」とか。
なんで使うかと言ったら、首から下げていると、「それ何?」と聞かれ、「iPhoneです」と答えるだけで、みんな大ウケするから。「見ちゃいけない」って思われるのは日本くらいなもので、これはもう老若男女、世界的にウケる。ロスに行った時は警備員に怪しまれたけど、説明したらゲラゲラ笑われて。僕としては作るだけで満足なんだけど、コミュニケーションツールにもなるから便利なんですよね。

そのスマホケースに出会ったら、ツッコまずにはいられないです(笑)。

片桐センパイ
そうでしょ。人と人の間を埋め、会話を生み出す。これこそがアートでしょう。でもまぁ、重いし、邪魔だし、プロダクトとしてはめっちゃくちゃ不便です。たまに「欲しい」といってくれる人がいてプレゼントするんですが、「身体にあたって痛い」「ぶつけて欠けた時がショックすぎて持っていられない」といわれるし。スマホ本体を守るという、最大の機能はばっちり携えているんですけどね。一見難点ばかりに思えるかもしれませんが、今若い子たちがスマホを斜めがけして持ち歩いているじゃないですか。あれを最初にやったのは僕ですからね。

不便で無駄なものほど愛おしい

そ、そうですか(笑)。制作についてのお話を聞いていると、片桐さんが「無駄」や「遊び心」を大切にしていることをひしひしと感じます。

片桐センパイ
不便で無駄なものほど愛おしいですからね。俳優・タレント業のほかにこういう創作活動をしていると、「いろいろなことをやってますね」と言われることが多くて、一時期は「何も大成してないんじゃないか」「俺って何なんだろう?」と悩んだこともありました。だけど、やっぱり作品を作っているとワクワクが止まらないんですよね。気の遠くなる作業も多いけど、その分、想像を超える作品になったりする。締め切りが守れなくて、土下座して謝ったこともあったけど、そういう失敗した部分も含めておもしろい。それは20年以上やっても変わらないかなぁ。

最後に、一歩先を行く「まぬけのセンパイ」として、後輩へのやさしい声かけをお願いします!

片桐センパイ
「大人になったら……」という詭弁がありますけど、大人になんかならなくていいんじゃないですか。大人な人は最初から大人ですから。自分を見ているとよくわかりますが、50手前になった今でも何も変わらないんですよ。いまだにガンダムや異世界転生ものが好きですし。変わったのは苦手だった野菜がほぼ食べられるようになったくらいで、性格の根っこ部分は中学2年生の時のまま。そんな自分も「しょうがない」「まぁいっか」で受け入れて生きてもいいんじゃないでしょうか。

間貫けのハコ

間があって、貫けがある。間貫けのハコへ、おかえりなさい。