vol.02
「まぬけ」という価値観に、今を生きるヒントがあるのでは?
連載2回目となる今回。どんなことを考えているのか知りたい、と訪ねたのは藤原麻里菜さん。藤原さんは「無駄づくり」をテーマにした発明品を、XやYouTubeで発信するコンテンツクリエーター。また、独特な世界観をつづる文筆家としても活躍されています。そんな藤原さんに聞く、「まぬけ」観とは?
藤原麻里菜(ふじわら・まりな)
コンテンツクリエイター、文筆家。1993年生まれ。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げ、現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2016年、Google社主催「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25,000人以上の来場者を記録。2020年、Forbes Japanが選ぶ「世界を変える30歳未満」30 UNDER 30 JAPANに選出。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。2022年、株式会社無駄を創立。代表取締役社長を務める。2023年、日経WOMEN主宰『ウーマン・オブ・ザ・イヤー2023』選出。
失敗を失敗とさせないのが、 「無駄づくり」のはじまり
藤原さんの発明品が以前から大好きで、楽しみにやってきました。
藤原センパイ
はい、藤原です。よろしくお願いします。
本日は、藤原さんのアトリエであるシェアオフィスにお邪魔しました。 光が入り、とても気持ちがいい場所ですね。1階にスーパーマーケットがあるビルで、社員の方がかつて使われていたという休憩所のフロアをリノベーションされているとか。
何社かでシェアしているんです。今座っている共有の場所でも仕事をしますし、自分の個室でも仕事をします。
さて、私たち編集部員はSNSで藤原さんの発明品をそれぞれが見ていてファンになっていました。「無駄づくり」の活動を2013年からはじめてもう10年なんですね。
藤原センパイ
そもそもは「ピタゴラスイッチ」みたいなものを作りたかったんです。けど、失敗しちゃって。でも、失敗したのを失敗と認めたくないなと、思って「無駄づくり」って名付けたんですよ。
お笑いがお好きで、芸人を目指して吉本総合芸能学院(NSC)に入られてピン芸人として活動されていたんですよね。YouTuberのオーディションで「家にあるものだけでピタゴラ装置を作る」という企画を出されたと。その企画が好反応でオーディションの面接を担当していた方から「YouTuberになったら週5は動画をアップしないといけない。できるの?」と聞かれて、できます!と答えたものの、本当はこれからだったという。
藤原センパイ
1回目の動画を撮影しようとしたんですが、うまくいかず。オーディションに受かってしまったからには、「できませんでした」では許されませんよね。それで便利なものをつくるのはやめて、無駄なものを作るチャンネルにしようと。続けるつもりはなかったので、無駄なものを作って3回くらいできたらいいかなと、思って始めました。
〝日常の違和感〟が、 ひらめきにつながる
途中で独立もされて、はや10年。続けられた理由ってありますか?
藤原センパイ
それが、続けようと思ってやってきたわけではないんです。ものを作るのは簡単ではなく、捻り出すような労力もありますし、それを世の中に発表するうえで「怖い」という気持ちもあります。でも、楽しいからやってきた結果が10年なんですかね。
楽しいから続いた、という、その気負いのなさがいいですね。メディアでのインタビューで『無駄づくりの定義は特にありません。好奇心の赴くまま、思いついたアイデアを形にするだけ』と答えているのを読んだのですが、そうした柔軟さにも抜けのよさを感じてしまいます。ご自身のお人柄になにかしらの「まぬけ」はあると思いますか?
藤原センパイ
うーん。自分というよりは、自分がつくるものに「まぬけ」さはあると思います。
ものにですか。どんなところにありますか?
藤原センパイ
私は自分の発明品にモーターをよく使うんですけど。モーターが動いてると、それを聞いている人はなぜか静まりかえるんですよ。その場にいる人全員が、じっとモーター音を聞いている沈黙の時間は「まぬけ」だなと思いますね。
なにか無駄なものを思いつくときって、どういうアプローチなんですか?
藤原センパイ
いわゆる”ひらめき”っていうのに頼りますね。
ひらめきですか。そんなに”ひらめけ”ます?
藤原センパイ
”日常の違和感”から着想を得ることが多いですね。なにか見過ぎたものや見慣れた景色にある、引っ掛かりみたいなものを汲み取って、そこから考えるみたいな。たとえば、ビニール袋が風にあおられて舞っているのを何となく見てることが多くて。それを小さくしてみようっていうふうに発想転換して作ったのが、「風に舞うビニール袋を卓上で再現するデバイス」です。
あと、食器を洗っていると、”水ってすぐ跳ねる”ことに気がついて。水が跳ねないようにする発明品は誰かがそのうち作るもしれないけど、水が跳ねやすくする発明品は私しか作らないだろうなと思ったので「水がびしゃびしゃになるように計算されたスプーン」を作りました。ほかにも、 カレーって絶対ルーかご飯かどっちか残っちゃうな、みたいな違和感から「カレーライスを50:50で食べられるスプーン」を作ってみたり。
このスプーン、ほしいです(笑)。
意味を求めず、感性のままに 生きることも、ときには大切
石川大樹さん、ギャル電さんとの共著で、『雑に作る』という電子工作についての本まで出してらっしゃいます。そのなかで石川大樹さんが藤原さんについて、作るものの量がすさまじいと書いてらっしゃいました。そんなすさまじいといわれる量のアウトプットをするうえで、ルールやルーティンなど、大切にしていることってありますか?
藤原センパイ
そのあたりは、実は言語化しないようにしていて。”無駄”についても定義していないこともそうなんですが、ダラダラと感性のままに生きることも大切なんじゃないかなと思っているんです。みんな意味を求めすぎてるというか。「なんでやってるんですか」「なんでこれを作ったんですか」とか「意味はあるんですか」とかよく聞かれるんですけど。理由なんてなくていい。わからなくていいじゃないかな、と思っているんです。
ああっ!そういうのって、ついつい聞いてしまう質問です。こちらも、インタビューをきれいにまとめたいというか、オチをつけたいといいますか。たしかに、無理に言葉で定義しようとしないで、直感や感情のままでいい、というのも大事ですね。
藤原センパイ
大切にしているわけではないんですが、無駄づくりを続けるうえでは「小心者」でいないようにはしてますかね。
「小心者」ですか?
藤原センパイ
仕事をして、物を作って、発表してって全部ひとりだと「大丈夫かな?」ってびびっちゃうんですよね。反響もあるので。だから、公開するときは小心者にならないように「どうにでもなるでしょ」という気持ちを強く持つんです。
「小心者」にならない。藤原さんの発明品はよく「ネガティブなことをポジティブに変える」と言われていますが、それとはまた違うニュアンスがありますね。「どうにでもなる」と思いきることで、ちょっと前に進む一歩になるというか。 では、最後にセンパイから後輩へひとことお願いします。
藤原センパイ
なにかものを作ること、それを続けることは、みなさんもやったほうがいいんじゃないかな、とは思うんです。電子工作であれば、まずは100円ショップのモーターをばらすところからやってみては。電池で動くものを分解したり、「アルディーノ」というマイコンボードを使って、モーターを制御したりするのがおすすめです。
『雑に作る』のなかでも、電子工作ができなくても、みんなやったらいいと書いてありました。
藤原センパイ
電子工作でなくてもジャンルはなんであれ、ものを作っているとわくわくしますよね。ものづくりをしていると「自分の輪郭が見えてくる」んです。みなさん、それぞれ頭に浮かんでいることや、もやもやしたことをアウトプットして放出させたい願望が少なからずあると思うんです。ライターさんだって、ある意味ものづくりだと思うんです。文章を書いていて楽しいことってなんですか?
なんでしょう……。やっぱり、頭のなかでぼんやりしていた概念が、だんだん言葉や文章となってまとまるとスッキリしますね。
藤原センパイ
それなんです。ものでもことでも頭に浮かんでいることをアウトプットしていくうちに、その輪郭がはっきりしていく。はっきりすればするほど好きなことがわかって自分自身のことがわかる。すると、自分が好きなように生きやすいのかな、生活が豊かになるのかな、と思います。