Vol.33

「サンキュー! 兼好法師」

結婚を機に、実家を出て、新居を構えることにしました。色々展示場をまわる中で、BESSにも行き当たりました。長年住み慣れた実家と比べると、BESSの家は、なんかラフな印象で、完成されてないような感じがしました。あのモデルハウスの状態が完成品なんでしょうか。

BIGFOOTBOY

 ♪授業中あくびしてたら、口がでっかくなっちまったあ、居眠りばかりしてたら、もう目が小さくなっちまったあ・・・ってRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」の歌詞じゃないけど、ホント、おいらの学生時代も、先生の声を子守唄代わりに、前の日の夜ふかし(ナニしてたかって? 聞きっこなしだよ)のたたりからの回復に、一心不乱に努めていたもんだったなあ。中でも、すーっと気持ちよく夢の世界へ入っていけるのは、古典の授業。程よく抑揚のいた朗読の声が、綿毛の耳かきみたいに気持ちよく鼓膜をくすぐる。おいら、とろけるように、優雅な古典の世界へタイムトリップ。蹴鞠にお手玉、笛の音・・・っていう平和な教室でのある日のこと、先生の「きょうは・・・」っていう授業開始の声に、パブロフの犬よろしく条件反射的に目蓋まぶたがゆっくり落ちて、いつものように向こうの世界に遊びにいっていた(ヨダレも垂れてたかも)。と、あれは何だったんだろう、天の啓示か神託か、ひとつの言葉がおいらの耳たぶをブッ叩いた。「フグなるこそよけれ」。別に河豚ふぐの夢を見ていたわけでもないのに、意味がわかっていたわけでもないのに、その言葉の不思議に力強い響きが、千年の夢からおいらを引き戻した。続く先生の説明で全てが納得いった。「不具、つまり、不完全なのこそ良いのだ」。不完全こそ良い――赤点だらけで完全とは程遠いおいらに、700年の時空を超えて、兼好法師が贈ってくれた応援歌!
 「すべて、何も皆、事の整うりたるは、悪しき事なり。し残したるを、さてうち置きたるは、面白く、生き延ぶるわざなり(何事も、事が整っているのは、悪いことである。し残したものを、そのまま放ってあるのは、面白く、長生きする秘訣である)」(「徒然草」八十二段)
 BESSの家は、なんか完成されてないような感じがするって? ありがとう! 兼好法師の深~い言葉じゃないけど、BESSの家は、あえて未完成の面白さを大事にしている。無垢の木の家だから、節もあれば、ひび割れもある。仕上げ材がすいたり、不均一だったり。傷ひとつなくピーンと張りつめた状態を“完成品”というなら、BESSの家は百点満点の優等生とは程遠い“不良”の家かな。だけど、ラフだから、壁に釘を打って棚を取り付けたり、クライミングウォール仕様にしてスパイダーマンに変身したり、太い梁にハンモックぶら下げたり・・・未完成だから気軽に手を加えられて、少しずつ自分流に仕上げていくことができる。次から次とやりたいことが生まれて、生きていく楽しみが拡がっていく。

――不具なるこそよけれ。そんな“未完の美学”をカタチにしたBESSの家で、「面白く、生き延び」てもらえると、いとどうれし。

「吐露byBESS」
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