長野県下伊那郡 Kさん
カントリーログ
長野県下伊那郡 Kさん
カントリーログ
長野県下伊那郡。小高い山を上り、カラマツ林を抜けると目の前が急に開け、その向こうに1棟のログハウスが建っていました。建物に近づいていくと、家の中から子どもたちの賑やかな声が聞こえてきます。その日はちょうど地域のマラソン大会。走り終えた子どもたちが両親と連れ立って遊びに来ていたのでした。キッチンから漂ってくるのは、奥さまお手製のペルー料理のスパイシーな匂い。「お腹が空いただろう。ほ~ら、もうちょっとだぞ」と、笑顔で子どもたちに話しかけるご主人。地域とともに生きる幸せなログハウスの物語がありました。
Kさんご夫妻がカントリーログを建てたのは、2005年のこと。きっかけは教職に就くご主人が、日本人学校の職員として赴任した南米ペルーでの生活でした。「若い頃から世界を見たいと思っていました。35歳の時にそのチャンスが来たので、迷わず応募。妻と3人の子どもたちも一緒に、3年間、首都のリマで過ごしました。」
持ち前の好奇心と明るい性格で、すぐに友人や知り合いができたご夫妻でしたが、そこで感じたのは現地の人たちの豊かなライフスタイルでした。「すごいお金持ちでなくても郊外にセルフビルドの家を持っていて、週末になると、たくさんの友人を招いて食事やお酒を楽しみながらゆったりと過ごすんですよ。そのゆるくて温かな雰囲気がたまらなく心地良くて、いつかは自分たちもこんな暮らし方をしてみたいと思うようになりました。」
帰国して2年後、その機会が訪れます。ご主人が長野市に出張した帰り、たまたま訪れたLOGWAYで見たカントリーログに一目ぼれ。ぼんやりと描いていた夢が現実味を帯び、購入を決めたといいます。
ログハウスが建つのはご主人の実家から車で5分ほど、かつて実家の棚田があった場所です。「子どものころに田植えや稲刈りを手伝った思い出の場所です。減反で休耕地になっていたところを、思わぬかたちで活かすことができました。」
建物は1階がリビングとキッチン、2階がロフトというシンプルな造り。お二人はその家にスペイン語でCASA VIENTO(風の家)と名付け、夜と週末を過ごすセカンドハウスとして使うことにしました。完成当初は3人のお子さんがまだ小さかったこともあり、家族だけで過ごすことが多かったそうですが、徐々にご夫妻が願っていた地域の人たちが集う場所になっていきます。
まず夢中になったのは、子どもたちでした。「主人が教えている小学校の生徒や、二人で指導している器械体操教室の教え子たちが来てくれるようになりました。」と、奥さまは当時を懐かしむように話してくれます。
しばらくすると子どもたちに連れられて母親たちが集まるようになり、やがては家族で。町内の行事が終わったあとのBBQパーティ、ホタルの観察会、星空がきれいな夜の天体観測会、雪が降れば棚田のスロープを使ってのソリやスキー遊び、中には音を出しても気にならないから演奏の練習に貸して欲しいという人たちも現れるなど、人伝てでどんどん広がっていきました。
「親子24人で合宿をしたこともあるんですよ。」と笑うご主人。「もちろん雑魚寝ですけど。大人も子どもも大喜び。きっと隠れ家のような気分になるんでしょうね。」
最近ではSNSでつながった遠くの友人たちも来てくれるようになっています。「私たちがお世話になったペルーやアジアからもいらっしゃいますよ。この家ができて、本当に人とのつながりが一気に広がりましたね。」と、お二人は嬉しそうに語ります。
建ててからすでに15年が経つログハウスですが、外観はいまも美しい姿を保っています。メンテナンスは、ご主人の仕事。「ゲストのない週末は、薪集めや草刈りで1日終わることが多いですね。冬が過ぎたらストーブのすす払いもありますし。3年に1回は外壁やデッキを塗り替えています。足場だけ職人さんに組んでもらいますが、あとは全部自分でやります。手入れをしてあげると、家が喜んでくれるような気がして、なんともいえない充実感や幸福感を感じます。」
技術家庭科の先生もしていたというご主人は手先も器用で、家具作りや改装などもお手の物。リビングの食器棚や映画のDVDや本などを収めるラックなども手づくりです。
「うちの子たちが小さいころは、ロフトをシアタールームにして映画もよく観ました。そんな子どもたちもそれぞれ独立しています。少しさみしい思いもありますが、いまはこの家に遊びに来てくれる子どもたちみんなが、自分の子どものような感じかな(笑)できるだけ楽しんでもらえるように内装にも手を入れています。壁に釘やフックを打ち付けるのにもログハウスなら気兼ねしない。このラフさがいいんですよね。」
ご主人が生まれ育った地区は歴史が古く、いまも昔ながらの文化や伝統を残しています。中でも盆踊りと雪祭りは有名で、重要無形民俗文化財にも指定されているほど。ご主人はこうした伝統芸能を代々受け継ぐ家に育ち、自身も笛の名手として活躍しています。「この年齢になって、改めてふるさとって大事だなと思うようになりました。遠い先祖から受け継いできた文化や伝統を、私たちの代で絶やすことなく次の世代につなげていきたい。そんなふうに思って、お寺でコンサートを主催したり、地域と親和性のあるアートイベントを立ち上げたりしています。そのためには、人がつながり、元気になれるような場所が必要です。この家が、少しでもお役に立てたらこんなに嬉しいことはありません。」